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56.新NISAで経営者が気づかなければいけないこと

近年急速に、一般の人たちにも、貯蓄から投資という選択肢の変化が起こっています。
長年、貯蓄してもちょっとも増えないと言われてきて、だれもが、ではどうすればいいのか?という状況だったところに、昨年、新NISAがはじまり、ようやく”無駄な貯蓄”と考えられていた手段に対し解決策が見つかったという状況になったのではないでしょうか。

NISAは投資ですから、一般的に投資は、お金が余っている人のやること、という認識があったのもこれまで足を引っ張っていたのかもしれません。団塊世代は特に。

私が経営する工場では、昨年、全社員に銀行引き落としてNISAができるという制度を導入し、NISAをする人には、一定額を補助もして、社員に貯蓄より投資をすることを勧めました。
以前は財形貯蓄という金利に税金がかからない制度を利用する社員も一定数いましたが、もうそれを知っている社員もいないでしょう。

貯蓄にしろ投資にしろ、自分でお金を持っていると使ってしまい、あらかじめ給料から引かれていた方が強制的にできるというのはメリットのようで、全社員の3分の2の人がこの制度を利用してNISAをはじめています。

まずは全社員を集めこの制度の説明をし、その後証券会社の方を呼び希望者を対象に詳細の説明をしてもらいました。
そして、専用のスマホアプリの設定方法などの説明を受け、ログインして銘柄選択ができるような状態まで進みました。

当然、社員はNISAを入り口にしてようやく投資というものを知った人たちばかり。すなわち、投資自体が初めての人ばかりです。どの銘柄を選べば良いかなんて分かりません。せいぜい日経平均っていう言葉を聞いたことあるくらいです。

そこへ証券会社の方から、こんな説明がありました。
「何を選べば良いかわからないと思いますが、困ったら米国株にしておけば間違い無いです」
その結果、私の知る限り、全額を米国株に投資する設定をした社員が8割くらいいます。
これは、証券会社の方の経験値やこれまでの米国株の実績から、社員の皆さんのことを考えて勧められたことと思います。わざわざ儲からないかもしれないものを勧めることは、自分の信用にも、証券会社の信用にも悪影響です。

しかし、その言葉を「経営者」という立場で聞いた時、とても不愉快な気分になったのです。

なぜ米国株を勧めるのか

新聞やテレビなどで多くの方が知っていることと思いますが、現状を確認しておく必要があると思いますので簡単に。

米国市場は、人口増加と消費力が高く、クレジットカードがあればじゃんじゃん買い物をするという傾向にあるそうです。企業は、事業拡大の設定を、グローバル展開を前提にしている企業が多く、特にGAFAなどのテック企業は、企業規模、売上、利益どれをとってもグローバルです。それに合わせて、成長市場にいる企業は、株価も長期的に右肩上がりになりやすいというのは想像がつきやすいでしょう。
最近では、AI、EV、バイオなど次世代産業でもやはりグローバルな展開で、しかもその業界を牽引しています。

そして、投資をするということは株を持つということですから、配当が積極的に行われることは投資先を選ぶ際にとても重要です。米国では株主に利益を還元するという文化や仕組みがとても根付いているという面もあるようです。

一方で日本ではどうでしょうか。
止まった30年と言われるくらい、国も企業も成長していません。それどころか、かつて世界トップになったような企業が軒並み右肩下がりです。企業によっては海外企業に買い取られてしまったり、多くの事業を切り売りしたりしてなんとか生き延びていると言ってもいいような状況です。

円高で物が安く作れる、安く買える、お金を借りても金利は低い、このような状況だから成長しなくても経営ができたとも言えます。その影響で社員の賃金も上がらなかったのでしょう。

そして、円安になれば原価は上がります。しかし日本の文化や慣習が原因となっているのかもしれませんが、価格転嫁がなかなかできません。
DX、新しいビジネスモデルの転換などのイノベーションが起こりにくいのも日本の企業の悪い特徴です。
古き良きものを大事にする文化が、この特徴を産んでしまっているようにも思います。

さらに、「投資家への配当より重要なことがあるでしょ!」という論調も強くありますので、この点も投資家が魅力を感じにくいのではないでしょうか。

証券会社の発言が意味するもの

証券会社の方が、投資先に困っている社員に向けて、「困ったら、米国株にしておけば大丈夫」というのは、単なる営業トークではなく、米国と日本の経済的な現状をはっきりと示しているものです。
投資をする先は、お金を預けておけば将来増えると思えるようなところしか選べません。先ほど確認した現状を知っていれば、米国株を選択することは至って自然です。
よほど余裕のある投資家が、この企業を復活させたい、育てたい、と思うような何かがなければ、配当があるかどうかわからない企業に投資することはないでしょう。

証券会社の方の言葉から、このようなことが私の頭の中をめぐり、「日本企業に投資しても儲からない」「投資先として魅力がない」と言われているように感じたのです。

小さいながらも、その日本企業を経営している私には、正直、屈辱的な言葉としか受け止められませんでした。

日本企業が投資先として選ばれるようになるには、国の政策など大きな動きが必要で、自社努力だけではどうにもならない部分があるのは当然のことではありますが、それでも自社でできることはいくつもあります。
投資家でなくても、周辺地域に住む人たちに、自分の時間をこの会社に預けても良いと思われなければ、就職先の選択肢にもなりません。

社長がいなければ回らない工場であれば、取引先から「この工場は社長がいなければ業務が進まない。だから、注文を出すのを躊躇する」ということは起こり得ることです。こんなことを直接言ってくれる取引先はまずありませんので、いつの間にか失注しているかもしれません。

ざっと調べたところ、日本の中小製造業の経常利益率は約5%。投資信託は年利6〜7%で20年で倍以上になる可能性があります。この数字だけ見ると、工場経営するより投資信託の方が儲かるのでは?と思わざるを得ません。

この数字も屈辱的ではありますが、やはり経営者をやっている以上「投資したくなる会社」というものを目指すしかないのです。
そして、投資家だけでなく、さまざまなステークホルダーに選んでもらえる企業でなければ事業継続は困難になります。

当社では、社長がいなくても仕組みで回る工場にすることは、そのために必須の取り組みと考えています。
あなたの会社は、選ばれる会社になるための仕組みができていますか?